<2023年9⽉を振り返って>⼭内英貴
ビッグ・ピクチャーと基本資産配分の点検と見直しを行いました。詳しくは2023年9月末基準の月次レポートをご参照ください。
ビッグ・ピクチャーとは、長期資産運用の大前提となる俯瞰図です。金融市場では24時間リアルタイムで目まぐるしくニュースが流れ、さまざまな市場参加者の分析や見通しが語られます。それらの材料に対する市場の反応はこれまた区々であり、同じ材料に対しても状況次第で真逆の反応を示したりもします。そうしたいわば「雑音」に過度に反応し、流されないよう、「木を見て森を見ず」にならないためにも、ブレない大局観を持つことが必要と考えています。
ビッグ・ピクチャーの見直しでは、「変わったこと」と「変わらぬこと」がありました。
「変わったこと」は、1980年頃から40年程度続いてきたディスインフレと金利低下の時代が転機を迎えたとみられる点です。ドルの政策金利(FF金利)でいえば、ボルカー時代の20%(1980年)からコロナ禍を経て0%付近まで低下し続けた潮流がついに反転しました。地政学リスクに伴う物流・製造コストの高騰とか、人口動態の変化による労働コストの上昇など、いろいろな指摘がありますが、私はシンプルに、40年間続いてきた財政金融政策の拡張が行くところまで行き、大きく振れた振り子が戻り始めていることが最大の要因と考えています。その意味では、さらにそれ以前40年間(1940年から1980年)のインフレの時代に何が起こっていたのかについては認識しておきたいと思います。歴史はまったく同じように繰り返すことはありませんが、一定の韻を踏むサイクルという点では、理屈を超えて参考になることが少なくないからです。そこで得られる示唆は、「インフレ環境で債券から実質リターンを得ることは難しい」ということです。満期に元本100が戻ってくる投資対象はインフレによって実質購買力を棄損する可能性が高いからです。現預金ではその傾向はさらに強くなるのはいうまでもありません。米国大学エンダウメントの多くは、こうした理由から、キャッシュや債券への配分はきわめて抑制的であることが知られています。
一方で「変わらぬこと」もあります。グローバル化のトレンドとグローバル経済の成長です。昨今の地政学リスクの顕在化は、東西冷戦終結後の急速なグローバル化がもたらした副作用に対する反動であり、グローバル化の終焉というよりは、その調整局面だと思います。換言すれば、長期的なグローバル経済の成長はこれからも調整を乗り越えて進んでいくでしょうし、私たち長期投資家は人類の未来を信じてブレない姿勢を堅持するべきだと考えるからです。
ただし、リーマン危機以降コロナ禍に至る十数年間(2008年から2021年)のほぼ一本調子の拡張的経済政策に支えられた安定的な市場環境(ゴルディロックス)に戻ることは期待薄ではないでしょうか。なぜならば、インフレ的な市場環境では、あらゆる資産価格が上昇することはありませんし、ボラティリティも高くなることが想定されるからです。
ではどうするかといえば、私たちの考えでは、新たな市場環境に適応し得る分散ポートフォリオを堅持し、長期資産運用を我慢強く継続していくことに尽きると思います。先行きを当て続けることは不可能ですが、リスクテイクの対価がリターンとなる以上、分散効果を確認しながらリスクを取り続けることが長期的にはリターンにつながります。
GCIエンダウメントファンドは、オルタナティブ投資を含めた分散の高度化により、ポートフォリオのリスクをコントロールして、リスク・リターンの最大化を図ることを目指しています。短期・中期の変動に振らされずに、変化し続ける環境にも右往左往することなく、グローバル経済の成長という果実を長期的に蓄えていくことを引き続き徹底してまいります。