<2024年11⽉を振り返って>⼭内英貴
来年のトランプ政権(第2期)誕生を前に、米国株高、ドル高、暗号資産高という流れのなか、2024年が暮れようとしています。新政権の政策の全貌は未知の部分も多く残りますが、米国実体経済の強さは印象的です。市場が織り込みたがる金融緩和方向への期待が何度か裏切られた1年でしたが、前々頁でも述べている通り、40年周期のような長期でみると物価と金利が底堅く推移する時代に入ったと考えています。その点は日本経済も同様で、ディスインフレ環境に逆戻りする可能性はより低くなったと思います。
米国のスコット・ベセント次期財務長官は、ヘッジファンド業界の出身であることが話題になりました。同氏がヘッジファンドのインキュベーションを行うニューヨークのファンドオブファンズの共同経営者を務めていた当時、当社も一緒に仕事をしたことがあるのですが、イェール大学で経済史の教鞭もとっていた学究肌の温厚な人物という印象があります。いまから30年前の1995年、ゴールドマンサックスからロバート・ルービン財務長官が就任した際には、ウォール街出身ということで大いに注目されました。同氏は「強いドル」政策と「金融立国」を明確に打ち出して、グローバル金融市場にも大きな影響を与たことで知られています。今回は、長官候補として、大手米銀や投資銀行の経営者の名前が当初取り沙汰されましたが、結果的にはヘッジファンドという資産運用業界から抜擢されたという点で、金融資本市場をとりまく環境の変化を感じるとともに、歴史観を重視する同氏の考え方が今後の市場動向に影響を与えるのではないかと思います。
同氏は、アベノミクスの3本の矢にならい、「3- 3- 3(トリプル3)政策」を提唱しています。
・2028年までに財政赤字をGDPの3%に抑える(支出削減)
・規制緩和によりGDP成長率を3%に引き上げる
・1日当たりの石油生産量を300万バレル引き上げる
簡単にいうと、「小さな政府」で、規制緩和により民間部門を活性化するというものです。その背景には、今後数年間で壮大な世界経済秩序の再編が行われる可能性が高く、そうした未知の事態に備えるためには、非効率な部分をカットして余力を蓄えておく必要がある、と考える同氏のマクロー・ビューがあります。グローバル・マクロのヘッジファンドを長年運用してきた同氏にしてみると、テールリスクに十分抵抗力のあるポートフォリオを念頭に置いている、というところでしょうか。
その一方、物価高と円安が定着しつつあるなかで、財政に潜在的課題を抱えた日本政府と日本銀行はどう対応していくのでしょうか。
GC Iエンダウメントファンドは来年9月で設定来10年となります。米国株を筆頭とする株式インデックス運用黄金時代となったこの間、オルタナティブ投資を活用した長期分散投資を行う当戦略は、結果として相対的に劣後した事実は否定できませんが、それでも、リスク管理を最優先した「長期分散」投資をシステマティックに継続していく方針に揺るぎはありません。インフレ的な環境でグローバル経済の成長から果実を期待できる株式と、市場のボラティリティを収益源のひとつとして債券に代替し得るヘッジファンドをポートフォリオの中核として、円ベースでのリスク管理を最優先し、安定的な成果を受益者のみなさまとともに目指してまいります。
どうぞよいお年をお迎えください。